「俺たち殺されるんだろうな」


 達観とともに朝倉が言った。

 俺たちは最後の金曜日の朝、体育館に寄っていた。

 3年間、バスケに捧げた青春だった。

 玲奈にかけられていた暗示はとかれていて、俺たちは他の部員たちの顔と名前を思い出していた。部室に揃ったロッカーやバッシュの数々。その持ち主と性格、そいつらと過ごしてきた思い出が脳裏によみがえってくる。

 殺されたのだ。

 俺たちの大事な仲間はみんなあの化け物に殺されてしまった。

 快楽殺人者。

 男を虐めることが何よりも大好きなサディスト。

 あの年下の少女によって、俺たちの大事な場所は奪われ、この島は生き地獄と化していた。B組の連中だけではなく、A組の奴らも、下級生たちもみんな殺された。あと残されたのは俺と朝倉の二人だけだった。


「死にたくねえ」

「ああ、死にたくねえなあ」


 そんなことをつぶやく。

 けれどもどうすることもできなかった。

 俺と朝倉にはもう反抗する気すらなくなっていた。

 それだけのことをされたのだ。

 もう俺たちはただただあの少女に殺されるのを待つだけだった。彼女の気がかわって生かしてもらうことしか期待できない。そんな鳥かごの中に捕らわれた愛玩動物が俺たちだった。

 今日。

 金曜日。

 俺と朝倉のうちのどちらかが殺される。

 これまでの日常でご奉仕がうまいほうを生かすと玲奈は言っていた。奉仕が下手なほうを殺すと。

 その言葉だってどこまで信じられるか分からない。あの真性のサディストが、殺せる男子をみすみす見逃すとは思えなかった。

 もう俺たち二人しかいないのだ。

 そうだとすればもう逃げ道なんてなかった。あの何十人もの男子を殺して楽しんできた少女が、一人だけ男子を生かしておくことなんて、我慢できるはずがないだろう。


「とにかく、今日に関しては恨みっこなしでいこうぜ」


 朝倉が言った。

 目の下にどす黒いクマをつくった親友が俺にむかって言ってくる。


「確実なのは今日俺たちのどっちかが殺されるってことだ。それはもう間違いない。この先、生き残ったほうがどうなるかわからないけど、でも、今日どちらが選ばれても、恨みっこなしにしよう」


 俺も同意見だった。

 俺は「ああ」と笑って、片手をさしのべた。照れくさそうに朝倉も笑って、手を握ってきた。最後の握手だ。俺は死んでも生きても、この感触を忘れないでいようと、そう思った。


 *


 授業中は何もなかった。

 今までみたいに玲奈に虐められることもなく淡々と授業が続く。

 俺たちは化け物と一緒に授業を受けた。

 教師は3人になってしまった俺たちを見てもとくになんの疑問ももっていないようだった。それは他の学年の教師も同じだ。生徒がいなくなっているというのに、そんなことに疑問をもつことなく過ごしている。

 その日常のはずなのに非日常にしか思えない現実が、俺たちが逃げることもできないことを教えてくれた。

 俺たちを含め、この島の人間全員は、これから玲奈の玩具となって生きていくことになるのだ。


「じゃ、やろっか」


 放課後。

 教師もいなくなった教室で玲奈が言った。

 いつもの洞窟ですらない。

 俺と朝倉にとっては3年間学んだ学び舎でとどめをさすということなのだろう。早くも興奮してニヤニヤ笑っている玲奈の様子が、とにかく恐ろしかった。


「といっても月曜日から今までのご奉仕の評価だと今のところ同点なんだよね。だから、今日のご奉仕でどちらを殺して、どちらを生かしてやるか決めることにするよ」


 生殺与奪の権利を奪われている。

 俺たちは玲奈の操り人形だ。彼女が命じればそうなる。俺たちは彼女の前に立ち、ガクガク震えるしかなかった。


「まず全裸になれ」


 命令。

 俺と朝倉は言われたとおりに制服を脱いでいった。その様子を玲奈は椅子にふんぞりかえって座ってニヤニヤと観賞している。

 シャツやズボンも脱ぎ捨てる。あとはパンツのみ。そこで躊躇した俺たちに容赦のない叱責がくだる。


「早くしろ。それも全部脱ぐんだよ」


 ビクンと背筋が震える。

 命令どおりにするしかなかった。俺と朝倉はプルプル震える手でパンツを脱ぎ、玲奈の前で丸裸になった。


「うわっ、ちっちゃ~。おまえらのち●ぽ、私のことが怖くて怖くて、縮こまっちゃってるね~」


 ニヤニヤとした笑顔。

 俺たちは立たされたまま、玲奈にじろじろと観察された。彼女は当然のように座ったままだった。

 立たされた俺たちと椅子に座った玲奈。

 観賞される物と観賞する者。

 俺たちは彼女を楽しませるための道具でしかないことを嫌でも分からされる。


「よし、舐めろ」


 両足を前に差し出しながら玲奈が言った。

 俺たちは彼女の足下に膝まづき、いつものようにその足先に舌を這わせた。

 もはや屈辱も何も感じなかった。こうしているのが自然なのだ。俺たちは玲奈にご奉仕をして生き延びさせてもらう卑しい存在にすぎない。

 彼女の足先にすら劣る劣等種。

 それを骨の髄まで教え込まされている俺たちは、ただひたすらに年下少女の足を舐めていった。


「あはっ、情けないね~」


 頭上。

 ニヤニヤと足を舐めてご奉仕をする俺たちを見下ろしてくる玲奈の視線。


「いつも勉強してる教室でさ~、全裸にされて、さらには年下の女の子の足をぺろぺろ舐めて、殺さないで~って必死に懇願しちゃってる。ふふっ、おまえらの心が完全に折れてるって、この光景だけですぐに分かるよね」


 笑顔。

 彼女は優越感に勝ち誇りながら笑っていた。


「じゃ、命乞いタイムといこうか。ほら、私を満足させる命乞いしてみ?」


 さらなる命令。

 玲奈の加虐趣味を満足させるために、俺たちは滑稽にも泣き叫びながら命乞いを始める。


「許してくだしゃいッ! 玲奈様、命だけは勘弁してください!」

「殺さないでッ! おねがいです。なんでもします。なんでもしますから殺さないでええッ!」


 俺と朝倉は膝まづきながら、頭上の玲奈を見上げて必死の命乞いを繰り返す。

 恥も外聞もなかった。

 心がこもっていなければ、すぐに目の前の怪物は俺たちを殺してしまうだろう。今までのように、なんの躊躇もなく、自分の快楽のためだけに俺たちを残酷な方法で殺し、楽しむに違いなかった。

 それが分かっているからこそ、俺たちは必死に命乞いを続けた。

 年下の少女の足下で、彼女のことを見上げながら必死に助けてくださいと念じる。自分たちの命は目の前の少女が握っているのだ。その絶対者である少女にむかって、俺たちは喉が嗄れるまで命乞いを繰り返した。


「よし、舐めろ」

「じゅばあああッ! じゅるうううッ!」

「じゅるう、ジュパアアッ・・・じゅじゅ・・」


 即座に足を舐める。

 命令一つで命乞いをし、命令一つで足舐めご奉仕をする。

 玲奈はそれを何度も要求した。

 命乞いを命じ、ひとしきり俺たちの滑稽な様子を観賞して楽しんだ後で、足舐めを命じる。

 俺たちの舌の感覚がなくなるまで舐めさせると、再び命乞いの命令。それが繰り返される。

 次第に、命乞いの言葉はろれつがまわらなくなっていった。何度も命乞いをさせられ、何度も感覚がなくなるほど足を舐めさせられていたせいで、もはや言葉ひとつ満足に喋ることができなくなってしまった。


「ゆるひゃてえええくひゃひゃい! ひのひだけはたしゅへへくひゃはいッ!」

「おふぇはいへふうううッ! ころはないへええええッ! ころはないへくだはいいいッ!」


 それを玲奈はニヤニヤと見下ろすのだった。

 何度も何度も。

 命乞いと足舐めの地獄。

 時間の経過が分からなくなるまで、それが続いていった。



つづく